2026/7/2
本日11時、東京都は令和7年度における「内密出産」と「新生児等の匿名預かり」の検証結果を公表しました。令和7年3月31日から令和8年3月31日までの1年間で、都内では内密出産が7件、新生児等の匿名預かりが20件実施されています。
私は今年6月、東京都議会本会議の一般質問で、このテーマを取り上げました。
東京都では昨年、賛育会病院が「赤ちゃんのいのちを守るプロジェクト」として内密出産と新生児等の匿名預かりを開始しました。一方で、これらはいずれも法律に基づく制度ではなく、医療機関の自主的な取組です。だからこそ、東京都としてどのように関わるのか、利用実態をどう検証するのか、そして今後の制度設計にどう生かしていくのかが極めて重要だと考え、都議会史上初めて、本会議で「内密出産」を質問テーマとしました。
質疑では、『東京都として検証を行い、その結果を公表し、今後の施策へ反映していくべきではないか』と質問しました。都からは、『検証チームを設置し、令和7年度分について今年度上半期を目途に公表する』との答弁がありました。
今回、その検証結果が公表されたことは、一つの大きな前進です。
この結果から、東京都として何を読み取り、どのような政策につなげていくべきなのか。そのことについて考えてみたいと思います。
「内密出産」と「匿名預かり」は何が違うのか
まず、この二つの言葉について簡単に整理しておきます。
「内密出産」とは、妊婦本人の身元は医療機関のみが把握し、家族など周囲には明らかにしない形で出産する仕組みです。
「匿名」という言葉から誤解されることもありますが、完全に身元が分からない状態で出産するわけではありません。医療機関は母親の氏名や情報を把握し、医療安全の確保や、将来子どもが自らの出自を知ることを望んだ際に備えて情報を保管します。
一方、「新生児等の匿名預かり」は、生まれた子どもを匿名で医療機関へ預ける仕組みです。
背景には様々な事情があります。
望まない妊娠。家族に妊娠を知られることへの恐怖。DVや性暴力。経済的困窮。若年妊娠。あるいは、「誰にも相談できない」という孤立そのもの。
もちろん、こうした事情があるからといって匿名預かりや内密出産が望ましいということではありません。本来であれば、妊娠が分かった時点で相談できることが一番望ましい。医療につながり、福祉につながり、それぞれの事情に応じた支援や選択肢を一緒に考えられる社会であるべきです。
しかし現実には、それでもなお、誰にも助けを求めることができない人がいます。だからこそ、最後の最後で命を守るためのセーフティネットとして、この仕組みが存在しています。
私は、このテーマを制度そのものへの「賛成か反対か」という二元論で語るべきではないと思っています。本当に問われるべきなのは、この最後のセーフティネットに至るまでに、私たちは何ができたのかということです。
検証結果が示したのは、「制度」ではなく「孤立」の実態
今回公表された検証結果で、私が最も重く受け止めた数字があります。
匿名預かり20件のうち、出産場所が把握できたものでは16件が自宅での出産でした。
さらに、預けられた新生児20人のうち15人が何らかの医療行為を必要とする状態でした。
この数字は、とても重い意味を持っています。
妊婦健診を受けることができなかった。病院へ行くこともできなかった。誰にも相談できなかった。そして、自宅など医療者のいない場所で、命がけの出産を迎えていた。
私は、この20件は「匿名預かりが20件あった」のではなく、「20人もの女性が行政にも医療にもつながれないまま出産まで孤立してしまった」と読むべきだと思っています。つまり、この数字は制度の利用実績ではなく、支援からこぼれ落ちてしまった現実数を示しているのです。
実際、検証チームの中でも「行政の支援につながっていない若い利用者が大半であったこと」「孤立した妊産婦が自宅等で安全面に課題のある環境で出産に至っている実態」「支援につながる前段階で必要な情報を得られていない可能性」が指摘されています。
ここで重要なのは、「匿名預かりがあるから相談しなくなる」という発想ではありません。
相談できなかった結果として、最後のセーフティネットにたどり着いているということです。
若い世代ほど支援につながれていない現実
今回の検証結果を見ると、匿名預かりを利用した母親は20代が12人、10代が3人でした。内密出産でも、7人中4人が学生であり、初めて病院を受診した時には、すでに正期産・臨月だった方が5人いました。また、妊婦健診を一度も受けていなかった方も3人います。
私はこの数字から、「相談窓口がない」のではなく、「相談窓口が届いていない」という課題を感じています。
東京都には、妊娠相談ほっとラインや女性相談支援センター、特定妊婦への支援など、様々な制度があります。今回の検証結果でも、東京都は今後、女性支援団体や学校、ドラッグストアなどと連携し、相談先を周知していく方針を示しています。
しかし、本当に孤立している人ほど、自ら検索し、相談窓口へ電話をかけることは簡単ではありません。「相談してください」というメッセージだけでは届かない。
だからこそ、若い世代が普段利用しているSNSや動画配信サービス、学校やアルバイト先、夜間の繁華街や居場所支援など、「困ったらここへ」ではなく、「困る前から自然と目に入る」情報発信へ変えていく必要があります。支援制度を増やすことだけではなく、支援の届け方そのものを変えることが、東京都に求められていると感じます。
「最後の砦」は、制度ではなく命を守るためにある
内密出産や匿名預かりについて議論すると、「制度があることで安易に利用されるのではないか」という声が聞かれることがあります。
しかし、今回の検証結果を読む限り、私はそのようには受け止めていません。検証チームは、匿名預かりの利用者の多くが行政の支援につながっておらず、自宅等で孤立した出産に至っていたこと、そして事前の相談支援につながっていれば、匿名預かりに至らなかった可能性もあると指摘しています。
つまり、最後のセーフティネットがあるから利用したのではなく、それ以外の選択肢にたどり着けなかった結果として、最後のセーフティネットにたどり着いたということです。
最後の最後で、「ここなら命を守れる」と思える場所は必要です。その存在と、より早い段階で支援につながる体制は、対立するものではありません。どちらも必要なのです。
東京の実践を国の制度へ
一方で、今回の検証では東京都だけでは解決できない課題も改めて明らかになりました。
代表的なものが、「出自を知る権利」です。
病院が保管している情報を、誰に、いつ、どのような条件で開示するのか。情報をどのように保存するのか。医療機関と行政がどこまで責任を担うのか。検証チームでも、こうした点について国として明確なルールが定められていないことが課題として挙げられています。
また、今回の検証は一年間の実績をまとめたものですが、預け入れに至る背景については「十分な情報が得られなかった」とも記載されています。だからこそ、この検証は一度で終わらせてはいけません。毎年検証を重ね、データを蓄積し、背景を分析し続けることが重要です。
東京には全国で最も多くの若者が集まり、多様な事情を抱える人が暮らしています。だからこそ、東京で積み重ねた知見は、国全体の制度設計にも生かされるべきだと考えています。
「最後の砦」を誰かの使命感に委ねてはいけない
私は都議会議員として、「命と尊厳を守る東京」を政策の柱の一つに掲げています。その中で、未受診妊婦への支援や内密出産、医療につながれない若い世代への支援は、これからも取り組み続けたいテーマです。
今回の検証結果は、「制度が始まりました」という報告ではありません。東京都として初めて、「制度がどのように利用され、その背景に何があったのか」を分析した報告です。
だからこそ、ここからが本当のスタートだと思っています。
私は、委員会や本会議でこのテーマを取り上げ、東京都による継続的な検証や独自モデルの設計の必要性を訴えてきました。そして今回、その第一歩となる検証結果が公表されました。当然これで終わりではありません。
この数字の背景を丁寧に読み解き、東京都としてできることを一つずつ積み重ねていくこと。そして、東京都だけでは解決できない課題については、国に対して制度整備を求めていくこと。その積み重ねによって、一人でも多くの方が孤立する前に支援につながり、それでもなお最後のセーフティネットを必要とする方には、安心してその扉を開くことができる社会をつくっていきたいと思います。
「最後の砦」は、あってはいけないものではありません。むしろ、どんな社会であっても、最後に命を守るための砦は必要です。
だからこそ、その砦が本当に機能するよう、現場の使命感に依存するだけではなくしっかりと政治が向き合わなければいけません。
そしてそこへ至る前に支援につながれる人を一人でも増やせるよう、東京都の政策を前へ進めていきます。生まれてくるすべての命を社会が歓迎する仕組みが必要です。
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