上野 がく ブログ

敬老パス問題を考える~札幌市の事例から~

2024/12/13

1 札幌市の敬老パス見直しに対する反応

札幌市の敬老優待乗車証(いわゆる敬老パス)は、70歳以上の市民が、1,000円~17,000円の自己負担で、10,000円~70,000円分の公共交通機関の利用ができる制度です。

利用者負担金 チャージ額
1,000円 10,000円
3,000円 20,000円
6,000円 30,000円
8,000円 40,000円
10,000円 50,000円
13,500円 60,000円
17,000円 70,000円

2024年12月4日北海道放送の内容

札幌市は自己負担額の引き上げと利用限度額の引き下げの見直し案を提示しました。敬老パスは健康寿命の延伸を狙う福祉施策だが、半数が利用せず、12%の人が市負担額の半分の金額を使っている利用実態が不公平というのが見直し理由と説明。

20代男性 「年金も介護も医療も全部、高齢者の福祉を現役世代が負担しているのに、交通費まで、われわれの給料から払わないといけないんですか」

敬老パスを利用 80代女性 「若い世代と私たちの間に、断絶を分裂を作らないでほしい。私たちも一生懸命働いて、いま現在があるんです」

アナウンサー「いろいろな声を聞くと、制度をめぐる世代間の対立ということではなく、定着した制度を変えるにあたり、札幌市側の説明が不足しているようです。」

https://www.hbc.co.jp/news/aed08e64d6a03868802d0b7e169219ca.html

2 平等の基準

平等を判断する基準は多様性があります。札幌市役所の主張するように一部の人しか利用していないことを平等でないと捉えるとき、判断基準は利用額ということになります。それ以外の基準を考えてみると、利用する権利、必要性に対する提供、結果としての健康状態などがあると思います。

たとえば利用する権利という基準から判断すると、70歳以上は全員同じ権利を持っていて、使ったか使わなかったかは本人の意思であるから、これも平等だと言うこともできるのです。

札幌市役所は健康寿命の延伸を目的としているので、個人の健康寿命が十分に延伸されているかを平等の基準とするのが自然な気がします。パスを使っていたらもっと健康になっていた人がどのくらいいるのか、反対に、より少なく使っても健康を損なわない人がどのくらいいるのか、などを説明できると良いのではないでしょうか。

3 高齢者の公共交通利用は健康に繋がるのか

さて、そもそも敬老パスは健康に良い効果があるのでしょうか。2つ紹介したいと思います。

(1)1日1歩あたりの医療費抑制額

ある人の歩数が1歩増えると、1日の医療費が0.065~0.072円抑制できるとされています。ある人の歩数が毎日1000歩増えた場合、その人の年間医療費は2.5万円削減されます。鎌倉市だと、2.5万円×6万人(75歳以上人口)=15億円。あくまで皮算用です。

バスを利用することで、外出回数が増えて歩数が増えると仮定すると、敬老パスによって健康になると言えるでしょう。ただし、地域の交通網や市街地の状況によって、効果が変わってくるようです。

出典:平成29年3月、国土交通省「まちづくりにおける健康増進効果を把握するための歩行量(歩数)調査のガイドライン」

(2)コミュニティバス路線を廃止した場合の介護給付費用増加

コミュニティバス路線を廃止した場合の試算で、路線廃止で節約できる費用の4.6%~25.0%の介護給付費用が増えるとされています。医療費も同様に増えると考えられます。

また、外出が減った人を6年間追跡して介護給付額の増加額を見ると、「ほぼ毎日から」減少:3万円増、「週2~3回」から減少:8万円増、「週1回」から減少:50万円増となっていて、元々外出回数が少ない人のさらなる減少は、大きな介護給付の増額につながることが分かります。つまり人によって効果が大きく異なるということです。この点で、すべての70歳以上が同じ条件で利用できる制度は、費用対効果だけを見ると問題があるのかもしれません。

出典:平井寛「地域交通サービスの維持と高齢者の健康」(自治総研通巻486号、2019年4月号)

4 鎌倉市の医療、介護費用

ところで、市町村にとって医療費と介護給付額を減らすことは重要なのでしょうか。結論から言うと重要です。市町村が国民健康保険と介護保険を運営しているからです。

鎌倉市でどのくらいのボリュームがあるかというと、2023年度、医療費では、国民健康保険事業特別会計約170億円、後期高齢者医療事業特別会計約60億円となっています。また、介護給付額では、介護保険事業特別会計約180億円となっています。毎年、医療と介護で約410億円ものお金が掛かっているのです。

区分 使った金額 一般会計から繰り入れ
国民健康保険事業特別会計 170億円 13億
後期高齢者医療事業特別会計 60億円 24億円
介護保険事業特別会計 180億円 28億円
410億円 65億円

これらは保険料や税金で賄われています。鎌倉市の負担額としては、いわゆる普通の予算である一般会計予算約700億円の中から、1割に相当する65億円が使われています。内訳は、国民健康保険に13億、後期高齢者医療に24億円、介護保険に28億円です。鎌倉市が健康増進施策に取り組むことは、財政的にも大変重要なのです。

5 損得で語るのは危うい。

実は、このブログを書こうと思ったのは、アベマの討論番組で敬老パスを取り上げて、ある論者から「高齢者の健康寿命が延びても、長生きしたらお金が余計にかかるから困る。」というような趣旨の発言があり、危機感を覚えたからです。ちなみに、健康寿命が長い方が、生涯の医療費は少ないというエビデンスがありますので、これははっきりと否定されます。

これまで見てきたように、敬老パスの是非については、現役世代が税金を払って、高齢者のために使われているという単純な議論では当然ありません。一つには、費用対効果の議論があるでしょう。もう一つは、現在の自分という存在にとって良い社会が、本当に良い社会かという問題です。

ハーバーマスが言う熟議に基づく民主主義という考え方があります。このときに大事だとされるのが、参加者は自分の立場だけではなく、世の中のあり得るすべての立場をも考えて議論することだと主張されます。人間は常に強い立場ではいられないのが普通です。子ども時代は他人に世話にならないと生きていけません。大人になってもケガや病気をすれば自分の財力だけでは生きていけないかもしれません。歳を取ればみな同じでしょう。自分の人生の中にはすべての立場の可能性が含まれているのです。できれば強い立場でありたいけれど、不幸にして弱い立場になったときに、人生を諦めなくてもよい社会というのが、安心感のある社会ではないでしょうか。

いずれにしても、多様な立場から見た平等さと費用対効果から納得解を探っていくしかなさそうです。

6 交通政策の中での位置づけが重要

最後に、敬老パスの問題は、どのような交通政策を取るかによっても意味合いが変わってくることを指摘したいと思います。敬老パスに年齢制限がないものと一般化して考えると、公共交通を利用する費用の低減です。公共交通の料金を安くするというのは、公共交通の活用を促進するための需要喚起策と考えることもできるわけです。次回は、鎌倉市の交通政策について考えてみたいと思います。

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著者

上野 がく

上野 がく

肩書 鎌倉市議会議員(1期)、総務常任委員会副委員長、会派「鎌倉前進の会」所属、元神奈川県職員、町内会役員(防災部長)、防災士
党派・会派 無所属

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