2025/11/28
佐賀県警察科学捜査研究所(科捜研)で発覚した、DNA型鑑定の不正130件。これは、一人の職員による規律違反として片付けられる性質のものではありません。期間は2017年から2024年までの7年間以上。なぜ、こんなにも長期にわたって不正が続いたのか。なぜ、誰一人として疑問を持たず、内部監査も機能しなかったのか。これは“組織ぐるみの不作為”であり、行政の重大なガバナンス欠陥です。DNA鑑定は、冤罪を防ぐ最後の砦であり、ときに裁判の結論を決定づける決定的証拠です。そこに不正があったということは、一人の人生どころか、刑事司法そのものが崩れるということです。
130件のうち、16件は実際に検察へ提出され、捜査や裁判で使われたとされていましたが、これは後の警察庁による特別監察の中間報告で25件と9件増えていたことがわかりました。そして驚くべきことに、県警はこの25件の事件名を一切公表していません。事件は、不同意性交、不同意わいせつ、殺人未遂、窃盗など重大事件に及びます。にもかかわらず、「影響なし」とだけ言い切り、どの事件で使われたかを示しません。これは、刑事司法に携わる自治体・国家の態度として問題です。被疑者や被告人、そして被害者も、「自分の事件ではないか」と不安を抱え続けなければならないのではないでしょうか。弁護側は必要な検証すらできません。こうした隠蔽体質が、冤罪を生む温床になるのではないでしょうか。
今回の問題をめぐって、日弁連・九弁連・佐賀県弁護士会など法律家団体と佐賀県議会は、そろって第三者委員会の設置を求めています。警察や検察が自分たちの不正を自分たちで調べ、「問題ありません」と言っても、市民は信用できませんので、第三者の調査を求めるのは当然です。それにもかかわらず、佐賀県警は外部調査の実施を拒み、「内部で確認したから問題ない」という姿勢を崩していません。これは行政の透明性という観点から極めて後ろ向きです。本来、最も厳しい目で不正に向き合うべき部署が、なぜ最も情報公開に消極的なのでしょうか。政治が問いたださなければならない局面であると考えます。
一人の職員が勝手にやったことで済む話では決してありません。なぜなら、不正の内容は単純ミスや記載漏れではなく、鑑定記録の虚偽記載、検査日や数値の捏造など、明確な改ざん行為だからです。通常であれば、複数人が関わる確認作業の中で不整合が見つかるはずです。しかし、技術者がたったひとりで捜査を完結し、不正が起きても直ぐには明らかになりませんでした。今回の事件は7年間も発覚しなかっただけではなく、事件が発覚したのが昨年、公表されるまで1年も経過しているのです。上司や同僚は確認していなかったのか、密室での単独捜査で何をしてもしなくても明らかにならなかったのか、内部監査は機能していなかったのか、チェック体制そのものが存在していなかったのか。これらはいずれも組織として致命的な問題です。特に、検体の管理状況については慎重な調査が必要です。DNA型鑑定はサンプルの取り扱いに一点の曇りもあってはならない仕事のはずです。紛失・すり替え・処理ミスがあれば、裁判の方向性が根底から覆りかねません。それすら“組織として把握できていない”という現状は、科学捜査を名乗る資格にかかわる重大問題です。
今回の不正は、「影響がなかった」と警察が言うだけで済む話ではありません。そもそも、影響がなかったかどうかを判断する権限は、不正を行った側にはありません。本来判断すべきは、裁判所、弁護側、被告人・被害者、そして市民社会です。鑑定の信用性は刑事裁判の根幹であり、そこに瑕疵があれば再審請求に直結します。私は今回の問題について、次の3点が必要だと考えています。①今明らかになっている25件の事件名・事件概要を、公表可能な範囲で公開すること。②保存検体が残っているものについては再鑑定を行うこと。③完全に独立した第三者委員会が全件を再調査すること。「冤罪があったかもしれない」という疑念を解消するためには、この3点の実施が不可欠です。
行政は往々にして「説明はした」と言えば責任を果たしたかのように振る舞います。しかし今回の問題は、説明したかどうかではなく、真実が明らかになったかどうかが焦点です。政治は行政に説明させるだけでは足りません。政治が求めるべきは、行政の自己点検に頼らない検証の仕組みと透明性です。国も地方も、警察組織の不祥事には腰が引けがちです。「警察の不正」を追及することは、ときに批判や圧力を招くこともあるでしょう。しかし、市民の人権を守るのは政治の役割です。ほとんどの警察官が高い倫理観を保持し、公正な職務執行に努めている中、こうした不祥事による信用失墜は、真面目に働く警察官の士気を下げることにもつながりかねません。
科学捜査は、市民の安心と安全を支える公共インフラです。その信頼が損なわれれば、刑事司法の根幹が揺らぎます。だからこそ今回は、「一職員の不祥事」で片づけるべきではありません。制度そのものをどう立て直すのか、政治が前に出るべきです。私は、第三者機関による徹底調査、鑑定業務の透明化、検体管理の厳格化、再鑑定の制度化を強く求めます。130件の不正、25件の“裁判で使われた鑑定”。これを「影響なし」で終わらせてはなりません。科学捜査の信頼を回復するために、政治が行政の外側から厳しく監視し、改革を迫る必要があります。私はこの問題を、佐賀県警という一地域の特殊な問題とせず、全国の科捜研で起こりうる問題と捉え、真実を明らかにし再発防止に努め、市民の権利を守るため、これからも取り組んでまいります。
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マツシタ レイコ/55歳/女
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