2026/3/31
こんにちは。神戸市会議員の岩谷しげなりです。久々にnoteの更新をします。報道等でもすでになされている通り、神戸市が神戸市室内管弦楽団に対する8000万円の補助金を打ち切るとの方針が発表されました。
https://www.asahi.com/articles/ASV3T3TGVV3TPIHB016M.html
この発表があった2週間前に、私は予算代表質疑において、神戸市の文化芸術施策や室内管弦楽団の今後について取り上げていた所であり、突然の発表に驚きました。
理由としては、
① 事業収入の内、市からの補助金が7割占め、他都市のオーケストラと比較しても行政依存度が高いこと
②定期演奏会の集客が平均560人程度であり、新たに開館する新・神戸文化ホールの大ホール(1800席)を埋めるのは非常に困難である
ことなどから、税を投入する事が適切ではないと神戸市として判断されたようです。
発表から今日に至るまで、どのような議論・検討がなされてきたのか、ほとんど分かりませんでした。
しかし本日の経済港湾委員会の議論で、今回の決定に至るまでの過程が徐々に露わになってきました(その議事録は下記の通り)。室内管弦楽団を運営する神戸市文化振興財団から、楽団運営の「改善提案」が出されており、それを神戸市は、「実現可能性が低い」として退けていた事も判明しました。
議論を通して見えてきたことは、今回の補助金打ち切り方針の決定は、神戸市が言う「採算性が取れない」という理由以上に、その本質は「新・神戸文化ホールが開館してしまうと、現状の室内管弦楽団では、その位置付けが難しくなってしまう」という理由なのではないかと思います。すなわち新ホールという「ハード」に、室内管弦楽団という「ソフト」が合わなくなってきてしまう。
今回の神戸市室内管弦楽団の補助金打ち切り(解散)問題を理解するためには、楽団の活動拠点となる「ホール整備」をめぐって、市がどのような政策転換を行ってきたかを知る必要があります。
1. 老朽化に伴う「三宮」へのホール移転計画
現在の神戸文化ホールは昭和48年(1973年)に開館し、50年以上が経過して建物や設備の老朽化が進んでいました。これからの神戸の芸術文化を支える基幹施設としてふさわしい機能を備えるため、大規模改修ではなく建替えが決定し、「美しき港町・神戸の玄関口“三宮”」へと移転する計画が進められてきました。
2. 幻となった「最高水準の音楽専用ホール」
当初、市役所2号館の跡地に、約800席規模の「音楽専用ホール」を建設する計画がありました。これは室内管弦楽団と混声合唱団の新たな本拠地(レジデント)となる予定であり、世界的に評価の高い専門家へ音響設計を依頼することまで決まっていました。
しかし2021年4月、新型コロナウイルス対策などの財源確保(30年間で85億円削減と試算)を理由に、神戸市の政策判断によって音楽専用ホールの建設計画は突如として白紙撤回されました。まさに楽団が専門人材を迎え入れ、本格的な改革をスタートさせた時期でした。
3. 計画変更が生んだ「問題点」
音楽専用ホールの建設中止に伴い、市は三宮に新設される「新・神戸文化ホール」の多目的ホールへ楽団の拠点を集約する方針に変更しました。しかし、これにより楽団は構造的な矛盾と問題点に直面することになります。
(1)「大きすぎる器」と音響のハンデ
新・大ホールは約1800席の規模となります。多目的ホールであるためクラシック音楽向けの残響に懸念があるだけでなく、小規模な編成である室内管弦楽団がこの巨大なホールを日常的に満席にするのは至難の業であり、採算面で圧倒的なハンデを背負わされることになります。
(2)「音楽専用」ではない新・中ホール
規模としては適正な約700席の新・中ホールも計画されていますが、完成は2030年度以降と遅く、演劇等の舞台芸術利用も想定した多目的ホールのため、音響性能は未知数です。

以上の前提知識を踏まえた上で今日の経済港湾委員会のやり取りを聞いていると、補助金打ち切り方針決定に至るまでの「輪郭」が見えてきます。それと同時に、議論を聞いていると、数々の新たな疑問点が浮かび上がってきます。
・財団から出された「改善案」を、実現可能性が低いとした神戸市としての明確な理由
・神戸市としては、どの程度のレベルの「改善案」なら納得したのか
・「改善案」を巡って神戸市と財団との間で、精緻かつ建設的な意見交換はなされたのか
・なぜ神戸市は、「新・大ホール」をレジデントとすることに固執してるのか。
・なぜ神戸市は、財団に対し「新・大ホールでの公演を前提に改善案を作ってほしい」と当初から言わなかったのか
・同じ補助率である「神戸市混声合唱団」の補助は続ける一方で、室内管弦楽団の補助は打ち切る明確な理由
等々.....
長くなるので、これらの疑問点については別の機会にまとめて書きます。これらは単に室内管弦楽団の運営に留まらず、神戸市の文化芸術施策における構造上の問題から発生しているのだと、改めて思いました。
ひとまず、本日の経済港湾委員会での議論の要約をご覧ください。私と同じ維新会派の同僚議員である、原直樹議員(垂水区)に非常に的確な質疑をして頂きました。
3月19日 経済港湾委員会・文化スポーツ局審査議事録(要約)
【1. 市長会見での「改善策が示されなかった」という発言について】
原議員:久元市長は記者会見で「(楽団を運営する神戸市文化振興財団からの)改善策が示されなかった」と発言しましたが、実際には財団から具体的な改善提案が提出されていました。市長はこの提案書の存在を知っていたのでしょうか?局から市長へ伝えていたのでしょうか?
文化スポーツ局: 文化スポーツ局で検討した結果をお伝えしておりますので、市長はご存知でございます。
【2. (新)大ホール(1800席)が埋まらないことを打ち切り理由とすることについて】
原議員:そもそも適正規模の「音楽専用中ホール」の建設を取りやめたのは市の政策判断です。それなのに大きすぎる「新・大ホール(1800席)」を基準にして「客が埋まらない」と楽団に責任を転嫁するのはフェアではない。財団は新・中ホールができるまでの間、神戸朝日ホール(約500席)を活用する現実的な打開策を示していましたが、なぜ退けられたのでしょうか?
文化スポーツ局:神戸朝日ホール(500席)での活動提案はありましたが、民間の500席の施設で65%(約350席)埋めたとしても、税金を投入する形として適切とは言えません。現在大ホールで定期演奏会を行っている以上、あくまで大ホール(1800席)を基準とした集客の改善を求たため、提案は打開策として十分ではないと判断しました。
【3. 打ち切り決定の不透明なプロセスと議会への説明について】
原議員:市は1月21日に財団へ補助金廃止を通知していました。それにもかかわらず、その1ヶ月後の2月24日の岩谷議員による代表質疑で、副市長から室内管弦楽団の「抜本的見直し」は現在進行形であり、「レジデント機能は保持していく」旨の答弁がありました。この時点では既に、室内管弦楽団の廃止を見据えた補助金の打ち切りを通知していた。だとすれば、なぜ議会に対しては上記のような説明になったのでしょうか?補助金打ち切りの報道がされたのが3月12日ですが、2月24日の時点で議会に対して、その旨を答弁しなかった理由はなんでしょうか?
文化スポーツ局:今すぐ楽団がなくなるわけではなく、2年後の話です。神戸市はあくまで「補助金廃止の方針」を伝えただけであり、最終的に楽団を解散するかどうかは財団が判断すること(市が打ち切る権限はない)ですので、そのように答弁しました。
【4. 「集客拡大の具体策が示されていない」という市の却下理由について】
原議員:財団の提案書には、新・中ホールへの移行期間の「打開策」として、室内管弦楽団の客層に適した「神戸朝日ホール」を活用し、フェスティバルホール系列の顧客を取り込む戦略が明記されています。また、しらかわホールや兵庫県立芸術文化センターなど市外の優れたホールの客層からの新規顧客獲得や、ユースオーケストラ創設、市民向け音楽講座の実施といった施策も記載されています。これらの会場の最適化や新規顧客獲得に向けた一連の施策が提案書に記載されていますが、これらが市の審査において「具体策」として評価されなかった理由は何でしょうか?市としては、これらとは異なるどのようなアプローチや、どの程度の粒度のものを「具体策」として求めておられたのか?
文化スポーツ局: 繰り返しになりますが、(新)大ホールを基準として評価しています。現状の平均来場者が560人(うち1割は招待客)という状況に対し、年間8,500万円の税金を投入することが適切かどうかを評価の基準としています。
【5. 「チケット単価を引き上げて集客増を見込める根拠がない」という理由について】
原議員:提案書では、ターゲット層に合ったホールへの変更と配席見直し(S席を増やす)による、単価向上と集客増の明確なロジックが示されています。なぜこれが「根拠不十分」とされたのでしょうか?
文化スポーツ局:大ホールでの開催を基準に想定しているため、チケット料金を値上げした上で、現在の500人からさらに集客を増やすというイメージが持てませんでした。単なる値上げは客離れを招く恐れがあり、具体性に欠けると判断しました。
【6. 民間支援獲得に向けた具体策(専門家の理事登用等)の却下について】
原議員:提案書には、資金調達の専門家を実名入りで新理事に登用する案や、直近の協賛獲得が着実に伸びているデータ(16件・約500万円)が示されていました。なぜ「具体策が示されていない」とされたのでしょうか?専門家の就任が確約されていれば判断は変わったのでしょうか?
文化スポーツ局: 理事の交代案などはあくまで「仮の提案」と理解しました。その方が就任しても、必ず支援がもらえるという「確実な見通し(実現性)」が認識できませんでした。「仮に確約されていれば」という質問への回答は難しいです。
【7. 混声合唱団を存続させ、室内管の補助金を打ち切る理由について。】
原議員:集客の厳しさや補助金依存率は混声合唱団も同等であり、市民還元率(市内在住者の割合)は室内管弦楽団の方が高い(約7割 対 約5割)というデータがあります。それなのに混声合唱団を残す明確な理由は何でしょうか?市長は会見で「(混声合唱団には)文化的な独自性がある」と言っていましたが、神戸市の考える「文化的独自性」の基準とは何ですか?
文化スポーツ局:混声合唱団は全国的にも希少なプロ合唱団であり、独自の存在感があるため対象から外しました。室内管弦楽団の演奏への評価は高いですが、私たちが問題視しているのは「どれだけ神戸市民に還元できているか」です。管弦楽団の独自性をどう評価するかについて、今明確に答えるのは難しいです。なお、混声合唱団も今後安泰というわけではなく、今後さらに市民還元や集客をやっていただく。
【8. 室内管弦楽団の今後のあり方(政策提言)について】
原議員:室内管弦楽団としては2021年以降、経営・運営面での改善が続けられ、聴衆や評論家からの評価も上がって来ていると聞いています。室内管弦楽団としての次なるステージへの途上であったにもかかわらず、これまでの経緯を遡ってみると、解散を見据えた補助金打ち切りは、議論があまりにも拙速かつ不透明であった言わざるを得ません。補助金の急激な打ち切りは、専門人材の流出や文化資産の断絶だけでなく、この件について既に多くのメディアが報じており反響も全国からあることから、神戸の都市ブランドを毀損しかねません。一方で、事業収入が約7割という自治体直営型の文化事業というのも、見直す部分はあります。文化を守るための税金投入は否定しないものの、行政依存型の文化事業は改革する必要があると考えます。すなわち「多額の補助金維持」でも「即廃止」でもなく、ロードマップを見識のある専門家を交えて策定し、漸進的に自律の度合いを高めていく文化経営への移行を進めていくべきです。
例えば、
① 補助金の性格を「赤字補填」から「政策目的契約」へと変更
学校アウトリーチ数、子供のための無料コンサート、観光イベント、市民参加事業等、公共価値を行政が購入する方式にする
② マッチング・グラント制度の導入
楽団が集めた支援(企業スポンサーや寄附、ファンドレイジング)に応じて、市が支援する
③ 経営体制改革
文化振興財団の一部門ではなく、独立した経営体へと移行させ、プロのマネージャーやマーケター、企業関係者、寄附専門人材等を運営に参画させる
④ホール専属の楽団からの脱却
市民還元の観点からMICEや空港のイベント等、学校への音楽教育、さらには、健康長寿や認知症予防などケアとウェルビーングの向上に寄与すべく病院や福祉施設へのアウトリーチと言った社会包摂の活動の強化など
といったこれらの取り組みによって、数年かけて徐々に補助率を下げていくと同時に、自立性を高めていくべきと考えますが?
文化スポーツ局:ご提案いただいた取り組みは、今回の方針を受けて財団側が考えることだと思っています。公立オーケストラがなくなることで文化行政の後退と捉えられるかもしれませんが、神戸の文化は室内管弦楽団だけではありません。市民オーケストラや吹奏楽など色々な形があり、浮いた予算は他の文化施策に回して市民に喜んでもらいたいと考えています。
【原議員による結論コメント】
神戸市室内管弦楽団は1981年に設立され、40年以上に渡り、市民と共に歩んできました。クラシック音楽の社会的受容の変化や、少子高齢化による財政構造の変化に鑑みて、文化芸術施策は神戸市室内管弦楽団に限らず、全国的にも厳しい状況にあります。そのような状況下において、文化芸術を、いかに社会の裾野を広げつつ、如何に次世代に紡いで行くのかなどについて、採算性だけではなく、芸術性や都市格なども考慮に入れつつより深い議論が必要な筈です。
それにもかかわらず、今回の補助金打ち切りに至る決定過程も、今日の委員会に至るまで拙速かつ不透明であったことは否めず、新・神戸文化ホールの開館に合わせた「結論ありき」のものであったという印象も否めません。
室内管弦楽団の今後については先に述べた通り、行政内部だけの議論で終わらせるのではなく、専門家の知見も借りながら、中長期的な視点から具体的な改革のロードマップを策定して行くべきと考えます。
また、文化芸術にとっては厳しい時代だからこそ、神戸市として「場当たり的な」判断で向き合うのではなく、確固たる思想と哲学を持って向き合うべきだと考えます。そのためにも、岩谷議員が先月の予算代表質疑で提案した通り、維新会派としては引き続き文化行政の専門性と透明性を高めていくために、「文化芸術振興条例」の策定はもとより、市長直轄の「文化審議会」や「アーツカウンシル」の設置を求めて参ります。
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イワタニ シゲナリ/38歳/男
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