2026/8/2
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1人を問責決議で消したら94人に増えた件──香川県議会の壮大な実証実験
香川県議会は2026年7月、日本の地方自治史に残る貴重な実験をやってのけた。
多数派がよってたかって一人会派の議員の発言を会議録から消したら、その発言が読まれ全国94人の議員から撤回の申し入れを受ける事になった。
何が起きたか
おさらいすると、7月9日、植田議員が一般質問で談合の再発防止策を質し、その中の「脱法行為」という表現が問題視された。10日に議長が発言取り消しを命じ、応じなかったため13日に問責決議が賛成多数で可決。会議録からも削除された。
そして7月27日。香川県と兵庫県の県議・市議ら5人が、県議会議長宛の申し入れ書を議会事務局の職員に手渡した。賛同者として、全国の現職・元自治体議員94人が名を連ねている。
申し入れの中身が、実に正確である。要旨はこうだ。
問責決議は、議会秩序を著しく乱した場合などに用いられるべき例外的な措置である。ところが今回は、議事録からの削除命令に従わなかったことや、SNSでの議会外の情報発信までを問題視している。これは少数意見を萎縮させ、議会における自由な討論を損ない、地方議会の機能を弱める結果になる。
高松市議会の太田議員は、「行政監視をしっかりやっている議員の発言を萎縮させることにつながるのではないか」と危惧を述べている。
……ちょっと待ってほしい。
「行政監視をしている議員が萎縮する」という懸念を、現職の市議が、県庁で、記者会見を開いて表明しなければならない。
その光景自体が、もう答え。萎縮するかもしれない、じゃない。萎縮してるんですよ、すでに。
ただし、この94人は、香川県議会において1票も持っていない。他県の議員だからだ。申し入れに法的拘束力はない。議会は「はい、拝受しました」で終わらせることができるし、おそらくそうする。
これを「外野が騒いでいるだけ」と読むこともできる。実際、そう読む人はいるだろう。県外の議員が香川の議会運営に口を出すな、というのは、感情としては分からなくもない。
だが、私はここが今回の一番おもしろいところだと思っている。
なぜ他県の議員が反応したのか──「香川モデル」の輸出可能性があるからだ。
考えてほしい。兵庫県の市議が、なぜ香川県の一人会派の議員のために県庁まで来るのか。友達だから? 同じ政治的立場だから? それもあるかもしれない。
だが構造的な理由はもっと単純である。明日は我が身だからだ。
今回の問責で確立されかけている前例を、要素分解するとこうなる。
1.少数会派の議員が、行政と事業者に不利な質問をする
2.表現の一部を「不適切」と認定する
3.議長が削除を命じる
4.従わなければ「反省がない」として問責する
5.議場の外でのSNS発信も問責理由に加える
このパッケージ、どこの議会でも使えてしまう。
そして5番が決定的にヤバい。議場の発言は議会の管轄だが、議員が住民に向けて行う情報発信は、本来は有権者との関係の話である。そこまで問責の射程に入れるということは、議会多数派が議員の政治活動の当否を採決できるということだ。
一人会派の議員にとって、SNSは事実上の唯一の広報手段である。議会運営委員会は会派の議員数で割り当てられ、9人の枠に一人会派は入りにくい。会派に入れない、委員会に入れない、そしてSNSも問責の対象になる。逃げ場、ないんですよ。少数派の意見が躊躇なく潰される世界は独裁政権まっしぐら。
全国の少数派議員が反応した理由は、たぶん正義感より先に、危機管理である。
だから、94人は他人事にしなかった
政治の世界で、自分の選挙に1票にもならないことに名前を出すのは、実はかなり面倒くさい行為である。名簿に載れば、当然、地元でも「あいつは何をやっているのか」と言われる。得るものは何もない。
それでも94人が名を連ねたのは、たぶん、この件が「香川県議会の内輪の問題」ではないと理解したからだ。少数派の発言を削除し、議会外の発信まで問責する運用が定着すれば、次に消されるのは自分の言葉である。彼らはそれを、制度の説明ではなく、実感として知っている。
正直に言うと、私はこの94人の名前が全部読める形で残っていることが、今回の一件で一番救いのある部分だと思っている。
だって、こちらは削除されていない。
会議録から消された言葉と、消せない94の名前が、同じ7月の香川県に並んで存在している。多数決で決められるのは議会の決定までであって、誰が何に反対したかという記録までは、多数決では消せない。

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