2025/12/10
令和7年11月26日に千代田区議会第4回でおこなった一般質問をいかに貼ります。
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千代田区議会自由民主党議員団の一員として、一般質問を行います。
今回は、子どもの学力や思考力の基盤が、実は0歳から形成されているという国内外の研究成果を踏まえ、千代田区の教育政策、とりわけ就学前教育の質の確保と拡充について質問いたします。
まず、「学力格差は0歳から始まる」と言える理由について、世界の研究成果を踏まえてお話しします。
就学前教育の代表的な研究に、「ペリー就学前教育計画」と「アベセダリアン・プロジェクト」の2つがあります。どちらも教育学・経済学に決定的な影響を与えてきた研究です。
これらの研究は、乳幼児期から良質な刺激や語りかけ、発達に応じた教育的関わりを受けた子どもの考える力が、その後の人生で大きく伸びることを示しています。
ペリー就学前教育計画は、1960年代にアメリカ・ミシガン州で実施された、就学前教育研究の金字塔ともいえる研究実験です。
スラム地区に住む貧困家庭の3~4歳児を対象に、約2年間、高品質な教育プログラムを提供するグループと提供しないグループを比較し、40年以上にわたり追跡しました。
その結果、教育を受けた子どもはIQや学力が向上し、高校卒業率・就労率が高まり、犯罪率や生活保護受給率が低下するなど、成人後の人生にまで長期的な効果が確認されました。
1970年代に行われたアベセダリアン・プロジェクトでは、0歳から5歳までの約5年間、毎日8時間、個別に発達を見ながら語彙習得や音声認識、読み聞かせ、遊びによる学習が行われました。乳児期から教育介入した点で画期的な研究です。
この研究の実験では、児童期のIQが平均4〜5ポイント上昇し、高校・大学進学率が明確に高まり、成人期における雇用率の高さ、生活保護受給率の低さ、犯罪歴の少なさ、健康状態の良さなど、多方面にわたる効果が確認されています。
この効果の大きさは経済学の分野でも注目され、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンは「教育への投資で最もリターンが高いのは、0〜5歳への投資である」と述べています。
子どもの学力は入学時点で大きな差がついており、その差はその後の人生全体にわたって持続する可能性があると推定されています。つまり、子どもの能力を最大限に開花させたいのであれば、小学校に入ってからでは遅い可能性があるということになります。
これは世界的な研究が示す現実であり、子育て支援を精力的に進めておられる樋口区長にも、ぜひ関心を向けていただきたい学術的事実です。
そこで質問します。
千代田区として、0歳からの早期教育の重要性を明確に位置付けた政策方針を、今後の子育て・教育施策の中心に据えていく考えはありますでしょうか。
次に、就学前教育における語彙力の重要性に移ります。
学力の根底には「語彙力」があります。語彙力は単に覚えている言葉の多寡のことではなく、思考力そのものであり、物事を整理し、理解し、判断するなど、子どもが考える際の土台となる重要な要素です。
ハート&リズリーは、0〜3歳の子どもが耳にする言葉の量が家庭環境によって劇的に異なることを明らかにしました。専門職家庭・労働者家庭・生活保護家庭を比較したところ、3歳までに最大約3,000万語もの差が積み上がるとされています。幼い頃に多くの語彙を耳にした子どもは、その後の学力も高い傾向が見られました。
この研究は、家庭環境、つまり「家柄」や「家庭年収」など、いわば「生まれ」で子どもの学力に差が出るという話にもなりかねず、実際、強い反発や反論があります。
ただ、言葉を通して世界を理解する子どもは、語彙の量によって「考えられる枠の広さ」が決まってしまう可能性があることは受け入れるべきと考えます。
子どもの語彙力は読解力の“上限”を決める要因であり、幼稚園段階で語彙が少ない子どもは、小学校・中学校で平均に追いつくことが極めて難しいことも研究から明らかになっています。
家庭や保育園・こども園においては、子どもへの語りかけや読み聞かせ、大人との対話などが重要です。それらが、その後の言語能力の土台をほぼ決定すると言っても過言ではありません。
ところが、現実には、忙しい保護者、言語環境の違い、家庭背景の差、1教室における子どもの受け入れ数、保育士や幼稚園教諭の能力や熱意などによって、幼児期に受ける言語刺激は大きくばらついています。
就学前の語彙力支援は、放置すれば確実に格差を拡大させる領域であり、行政が介入する正当性が非常に強い分野です。
そこで質問します。
千代田区として、0〜3歳の語彙環境を整えるための支援は行っていますでしょうか。読み聞かせ支援、家庭での語りかけのためのガイド、絵本配布、親向け講座などを体系的にも強化すべきと考えますが、いかがでしょうか。
次に、子どもの「非認知能力」の発達に移ります。
先に述べた語彙力に加えて、もう一つ強調したいのは、認知能力、あるいは学力とは別に存在する「非認知能力」の重要性です。
非認知能力は、自己制御力、集中力、粘り強さ、協調性、衝動をコントロールする力など、テストでは測れない、生きる上で大切な力を指します。
非認知能力を育てる代表的な研究として、アデル・ダイアモンドらが行った「ツールズ・オブ・ザ・マインド」プログラムがあります。この研究で明らかになったのは、子どもの非認知能力を高めるには“ごっこ遊びが最も効果的だった”という実験結果です。
子どもは病院ごっこや郵便屋さんごっこなどの役割遊びの中で、ルールを守り、順番を待ち、相手と協力し、自分の行動を調整しながら目的を達成します。
ここでは、非認知能力を高めるように遊び方をデザインすることが重要ですが、ただし、大人の役割は子どもを教えることではなく、壁にぶつかったときや困ったときにヒントを出したり、少しだけ手助けして側面から支援することにあります。
保護者や保育士には、子どもにゼロから何かを教えようとするのではなく、子どもを主人公にして、その試行錯誤を見守り、黒子に徹してひそやかに手助けすることが求められます。
非認知能力は、いわゆる「地頭」に直結し、人生の適応力を決めます。そしてこの力もまた、乳幼児期に急速に形成され、小学校からの対策では、真の意味で高い効果は期待できないかもしれません。
ところが、日本の保育では依然として「安全に預かる」段階にとどまりがちで、非認知能力を育てる体系的なプログラムは十分ではありません。
千代田区が先んじて教育プログラムを構築して、遊びから得る学びの最大化を意図的にデザインすることは、区内の子どもたちの未来を大きく変える可能性があります。
そこで質問します。
千代田区として、遊びを通じて非認知能力を育成する保育プログラムを、区内の保育園・こども園で体系化し、区として積極的に支援するお考えはありますでしょうか。
次に、就学前教育の質を決定づける人材育成に移ります。
北欧諸国、特にスウェーデンやデンマークでは、保育士の大学教育が義務化され、制度的に高い専門性を持つことが前提となっています。そして定期研修や専門資格制度によって、常に知識や実践がアップデートされる仕組みが整っています。
それに対して、日本では、保育者の研修は自治体や園に大きく委ねられ、体系性に乏しいといわれています。
千代田区内でも、保育園・幼稚園・こども園の教育内容には一定の差があり、非認知能力をどう育てるか、語彙力をどう伸ばすかという視点の共有も途上にあります。
子どもの発達に最も影響を与えるのは、環境そのものではなく、目の前の保育士や幼稚園教諭の質です。これは研究で一貫して示されている事実です。
だからこそ、区として研修制度を強化し、使命感とプロ意識を植え付けることが非常に重要だと考えます。
ここで質問します。
千代田区内の保育士・幼稚園教諭の専門性向上に向け、区独自の研修制度拡充はどのように設計され、実践されていますでしょうか。今後の方針などもあれば、合わせてご教示ください。
最後に、小学校との接続についてお伺いします。
子どもにとって、小学校入学は生活・学習の両面で大きな転換点です。幼児期とのギャップが大きすぎると、いわゆる「小1プロブレム」と呼ばれる、学習意欲や自己肯定感の低下の状態に陥ることにつながります。
そのため海外では、保育・幼児教育と初等教育の接続を制度化している国が多く、小学校教員と幼児教育者がカリキュラムを話し合うことが必須になっています。
千代田区でも、接続期の情報共有や会議は行われていますが、体系的な制度として確立されているかは定かではありません。保育園・幼稚園・こども園と、小学校を結ぶ“教育の連続性”をどう確保するかは、区として避けて通れない課題です。
そこで質問します。
小学校とのカリキュラム接続は現在、行われていますでしょうか。もしまだであれば、正式な制度として確立し、保育と教育を連続的に支える取り組みを拡充するお考えはありますでしょうか。
これほど大事な時期の保育が、単なる預かりサービスであってはなりません。この時期は、子どもの人生を左右する重大な時期であり、大きな目で見れば、国の根幹を支える重要な人材を多く輩出させるためにも最も重要な時期です。
千代田区は財政力が高く、子育て支援にも先進的に取り組んできた自治体です。だからこそ、国の制度を待つのではなく、独自の政策として就学前教育の質の向上に踏み切るべきだと考えます。
少子化が進む今だからこそ、子ども一人ひとりに有効な投資を行い、将来の区を支える人材を育てる絶好の機会です。“どこよりも学びの基盤が強い区”を目指すことは、千代田区の未来戦略として非常に合理的です。
AIが進化し、知識が容易に手に入る社会では、「覚える力」以上に、「考える力」「気持ちをコントロールする力」「他者と協働する力」が求められます。これらの力は、乳幼児期から就学前の短い期間にこそ最も育ちます。
千代田区が、子どもたちの未来のための投資を実践して、教育の質で日本一を目指す自治体となるよう、賢明な教育政策の判断を強く期待します。区長ならびに関係理事者の前向きなご答弁を求め、私の一般質問を終わります。
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