2026/3/19
【国・県・市の連携治水革新:治水施設現場視察】
三郷市議会 創政 MISATO
佐藤 裕之
日髙 千穂
鈴木 優作
1. 視察団の目的
本視察は、本市における水害対策の中核を担う治水施設について、現地確認を通じて理解を深めるとともに、施設間の連携や実際の運用状況を把握し、今後の政策提言に資することを目的として実施した。
2. 視察概要
■日時:令和 8 年 3 月 18 日
■視察先:
・三郷排水機場
・大場川伏越し部
・大場川上流排水機場
・新大場川水門
・新和地下調整池
■総合治水対策・流域治水
3.三郷市の地理的特性と脆弱性
三郷市は東を江戸川、西を中川、中央を大場川に囲まれた低地であり、その形状は「お盆」に例えられる。東京湾の潮位の影響を強く受ける感潮河川域であるため、満潮時には河川が逆流するリスクを常に抱える。この「水が入りやすく、抜けにくい」脆弱な地形において、本市は昭和 55 年(1980 年)に「総合治水対策計画」を策定し、以下の 3 本柱による戦略的防御を構築した。
• 「流す」: 河川改修および排水機場(ポンプ)による強制排水の強化。
• 「ためる」: 調整池や雨水貯留施設による流出抑制。
• 「備える」: ハザードマップの高度化と市民の自助・共助の醸成。
「地域の生存戦略」としての広域連携
行政の縦割りを排した国・県・市の連携は、単なる協力の枠組みを超え、気候変動適応法にも合致する「地域の生存戦略」として機能している。流域全体でリスクを分担するこのアプローチは、都市の持続可能性を担保するための不可欠なパラダイムシフトである。本報告書では、 当市の脆弱性を「強靭なレジリエンス」へと転換させた具体的なインフラ資産と運用戦略を分析する。
4. 施設運用の三位一体:国・県・市による多層的防御の実態
三郷市の治水は、異なる管理主体が運用する施設群が、あたかも一つの統合システムとして同期することで成立している。

実務連携の深度:操作受託と技術的冗長性
本体制の核心は「運用の機動力」にある。特筆すべきは、埼玉県管理の「大場川上流排水機場」の操作を三郷市が受託(操作受託)している点だ。これにより、県職員の到着を待つ「レスポンス・ラグ」を排除し、現場状況に即した即時対応を実現している。
また、工学的な難所として大場川の放水路「伏越し(ふせこし)」構造が挙げられる。三郷放水路が大場川の河床の下を交差するこの構造は、大雨時に約 70cm もの水位差を生じさせる。この複雑な水理条件を管理するために技術的ハードルの克服が三郷市の高度なレジリエンスを証明している。さらに、三郷排水機場ではエンジンの冷却水を河川水から水道水へ切り替える等の改良を重ね、不測の事態に対する冗長性を確保している。
5.戦略的運用「事前閉鎖」:台風時の浸水抑制メカニズム
ハードウェアの性能を最大化させるのが、予測データに基づく動的なソフトウェア戦略である。
三郷市が採用する「事前閉鎖」は、河川そのものを巨大なダムへと変貌させる。
1. 予測と潮位分析: 台風接近の数日前から気象予測と東京湾の潮位を照合。
2. 連携判断: 国・県・市がリアルタイムで情報共有し、閉鎖タイミングを合意。
3. 先行閉鎖: 干潮時の水位が最も低いタイミングで水門を先行閉鎖。
4. 貯留空間の最大化: あらかじめ水位を下げて閉鎖することで、大場川の河道内に膨
大な空き容量を確保。これを「線状貯留」として機能させ、市街地からの排水を強力に受け止める。
この「事後対応」から「予測型・能動的対応」へのシフトが、氾濫を未然に防ぐ決定的な差を生んでいる。
6.データが証明する連携の成果:令和元年東日本台風(台風 19 号)の検証
広域連携体制の効果は、過去の災害データとの比較において圧倒的な「投資対効果(ROI)」として示されている。

経済的合理性と減災効果
令和元年台風 19 号における三郷排水機場等の稼働により、流域降雨の約 3 割を域外へ排出。
三郷放水路による水位低減効果は約 15cm に達した。試算によれば、これら広域連携インフラが機能していなければ、追加で約 1,500 戸の浸水が発生し、被害額は約 110 億円増大していたとされる。これは、巨額のインフラ維持費を補って余りある「回避された損失」であり、高度な BCP(事業継続計画)としての妥当性を裏付けている。
7.多目的利用と市民理解:新和調整池(地下神殿)を核とした広報戦略
治水インフラは「負の遺産」ではなく「地域の資産」であるべきだ。当市は新和調整池(地下神殿)を戦略的広報の核としている。
可視化による「心のインフラ」強化
• 建築的価値の活用: 70 本の巨大な柱が支える 13,500 ㎥の地下空間を「地下神殿」としてブランディング。
• エンゲージメント構築: 親子見学会(倍率 30 倍)や特撮番組のロケ地活用により、通常は目に触れない治水施設への関心を高めている。
治水への理解は、市民の「自助・共助」を促進する。施設が稼働する意味を知ることは、災害時の迅速な避難行動に直結し、ハードとソフトが補完し合う理想的なレジリエンスの形を形成している。
8.結論:広域防災計画のモデルケースとしての提言
三郷市の事例は、日本各地の自治体が目指すべき「流域治水」の完成形の一つである。本分析より、以下の 3 点を成功の本質的要因として提言する。
1. 「縦割り」から「同期」へ: 管理区分を越えた操作受託や即時情報共有により、レスポンス・ラグを極小化すること。
2. 戦略的ソフトウェアの構築: 「事前閉鎖」による線状貯留の創出など、ハードのスペックを予測データで最大化させる運用術。
3. 市民を巻き込むレジリエンス: インフラを可視化・観光資源化し、市民の危機意識をポジティブにアップデートすること。
本報告書が提示した当市の「三位一体」モデルは、単なる地方自治体の成功事例ではない。
これは、気候変動時代において国・県・市が結ぶべき「新たなパートナーシップの設計図」であり、日本の都市防災におけるスタンダードとなるべきものである。
最後に相馬建設部長の挨拶を添え、本報告書を結ぶものとする。
「三郷市は国・県・市の連携が本当に実現している稀な市である」
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